「…斑目くん、平気?」

「…ん、だい…じょ…ぶ……」

「本当に?」

「クケケケー?」

「…たぶん…」



今にも眠りについてしまいそうな斑目くんは、見るからに到底大丈夫そうではなかった。歩きながらもときおりふらりと体が傾いて、危なっかしいとは正にこの事を言うんだいう現状を目の当たりにした。身の危険を感じたためか定位置の肩の上にいたトゲーはいつしか私の制服のスカートのポケットに避難していた。



「多分って…あ、あそこで休んで行こう」

「…ん…」



丁度見つけたベンチを指差しすと斑目くんもそれに同意してくて、「クケ」とトゲーもお返事をしてくれたので暫くそこで休むことにした。それは円形のベンチで背もたれになっている中央部分からは大きな木が植えられていて、私たちが歩いてきた方向から丁度反対側にあたるその場所は夏の日差しを遮るのには丁度良い木陰になっていた。



「飲み物買ってくるね。何がいい?」

「…が、決めていい…か……ら……」



途中で消えて行った語尾は即ち彼が眠ってしまったという事だ。ベンチ腰掛けた瞬間に眠りについてしまうだなんて…よっぽど眠かったんだね…。



飲み物を売っている場所を探しながら足を進めるけれど、他の人に会う事はない。…特にこの夏の時期ならば夏休みまでとはいかなくとも、それなりに混雑する季節の筈だ。この遊園地がそんな季節に閑古鳥が鳴くほど人気がないのか?と問われればそれは違う。だってそんなに人気がないのならとうに潰れている筈だから。むしろその逆で、老若男女誰もが知るテーマパークだ。



真壁くんが、授業をサボる為の場所として選んだのがこの遊園地だった。…それにしても真壁君って、本当にお金持ちなんだなあって今身を以って実感した。今日は平日であって、祝日でも長期休暇の最中でもないので本来ならば学校にいて授業を受けている時間だ。…まあ、正確にいうならばテスト後の授業という名目の補習のようなものだけれど。そして今、私たちがいるのは学校ではない。斑目くんと私が休んでいるベンチのあるこの場所は遊園地だ。…そう、真壁くんは授業をサボるその為だけに遊園地を貸し切ってしまったのだ。



今、お客さんとしてここにいるのはB6と私だけ。そんな少人数で来たにも関わらず入ってすぐに別行動になるなんて…まあ、自由なB6らしいと思う。そしてそのバラバラになったうちの一つが斑目くんとトゲーと私という組み合わせだった。はじめは風門寺くんも一緒だった筈なんだけど…半分眠りながらふらりふらりと歩く斑目くんを見失わないようにしていたらいつの間にかはぐれてしまった。



…でも、まあ…ここには私たちしかいないんだから、いつか合流できる気がするしいいんじゃないかな?







*







いつもは感じない、それは夢ではなく確かな温もり。夏の暑さとは異なって、照り付けるような容赦ないそれではない。



身を起こすと小さく「…ん…」と零れる吐息。一瞬身じろぎするけれど再び眠りに落ちて行ったのか微かに呼吸のために肩を上下させる以外は動かなくなった彼女はクラスメイトのだ。今日翼が彼女を連れて来たのは、庶民が珍しいから…らしい。…聖帝にいる時点で庶民じゃない気がするけどそれは敢えて言わない。クラスAならあるいはいるのかもしれない。成績が良ければ奨学金を貰えたり、特待生制度だってあるんだから。…だけどB6(かれら)と一緒に居るときは僕は馬鹿だから、そういうことには気が付かない…フリ。普段だったら南先生でもつれてくるんだろうけど。今日はサボタージュ決行の為だから先生じゃ駄目。…それに、面倒と言う僕を連れ出すのに彼女が有効だということに気がついているのかもしれない。



…実際問題、僕の中での存在が大きくなっているのは確だ。しかも、良いほうの特別という意味で。トゲーが彼女を気に入っているというのは事実だけど。それを理由に貸し切り状態の娯楽施設でずーっと後ろをついて回っていた。風門寺も一緒について来てたけど、それを撒くようにふらふらと歩いていたらうまい具合にそれは成功したみたいだ。



はじめて会った時から、変な言い方をすると普遍から少しだけ逸脱した君は…そのころから変わることなく僕の隣にいる。…だから、今までならだれかが傍にいる事が不快だったはずなのに…僕以外の誰かが君の隣にいる事にいる事の方が嫌だといつしか思う様になったんだ…



「…斑目くん、」

「…なに……」



だけれど返答はなく、トンと軽く肩に重みを感じた。…まだ寝ているみたいだったから起こさないようにそっと彼女が買ってきてくれた飲み物に手を伸ばす。



「…大丈夫…だよ」



どんな夢を見ているんだろう?眠りながらも僅かに上がった口角が悪い夢を見ている訳ではないことを示しているのだろう。でも、誰かが僕の夢を見てくれている事を不快に感じない。…彼女に出会って少しずつだけど僕の中で変化があったみたいだ。…それは日々の緩やかな時間の流れの中では気付かないけれど。あるときこうしてふっと気付くんだね。







まわる、せかい、ぼくら







覆うように頬にかかった君の髪を指でなぞった。そっと、そうっと…。





らめみずき
[20100702]