不可解、といえばそうだった。…だが、納得がいくといえばそうでもある。どとらなのかと問われれば…答えはどちらもである。
そう、が不可解だと感じるのは何故わざわざ郊外演習の前日に自身だけが教官の執務室に呼ばれなければならないのかという点だ。別段は成績が悪い訳でも、素行が悪い訳でもない。…こんな事を思うなんて…と思いながらも想像してしまうのは、一人だけで執務室に呼ばれる可能性のある人物二人だ。それは無論、と同じくカイロン隊レグルス班に所属する人間だった。潜在能力無限大・だが、成績最下位のナイル・アルマースと、と同じ特待生で成績は優秀だが学園の問題児と謳われるアルビレオ・ラトナラジュの二人だ。
どちらかといえば、自身は今名前が挙げられなかった残りの班員二名に含まれるのではなかろうか?とは思った。何故なら、彼女はレグルスに及びはしないが成績も優秀であるし普段の素行はアルビレオと比較してまるで問題ない。人付き合いを端的に拒むようなホクトに比べれば随分と社交的だと自負していたからだ。そういった意味では彼女がカイロン教官に一人だけで呼び出される理由が見えない。
(だけど、ない訳じゃ…ないか。)
そう、たった一つだけ思い当たることがあった。だがそれは、学園での普段の生活とは関係が皆無だったからこそ出来ることなら触れられたくない話ではある。だが…致仕方のないことなのだろう思わずにはいられないのは、今回の演習地に間違いなく関係ある。珍しく気が重いと感じた矢先に無意識のうちに零れる溜息には失笑を禁じえない。
気がつけばもうカイロン教官の執務室の目の前に立っていた。木製の扉を2回ノックする事すら気が重かった。…けれど、軍学校であるグラール学園において、教官からの指示は即ち絶対を示す。この学園内でそれを完全にスルーして過ごせる人間などアルビレオくらいなものだろう。自身でも驚くほどにためらう様に響いたノックの音に次いで「入れ」という教官の声に…いよいよ腹を据えなければとは年季の入ったドアノブに手をかけた。
「失礼致します。レグルス班、・出頭致しました」
形式的な物ではあるが敬礼をして背筋を伸ばすと、「…まあ、そんなに畏まらなくていい」とカイロン教官は目を通していた書類を机の上に置いて腕を組んだ。話しながら自然に書類を裏返したところを見ると…そこには機密内容ではないが、自身の目に触れない方がいいと判断した物ではないかとは判断した。
「…ですが教官、私は次回の演習の件で教官の執務室に呼び出されたのではないのでしょうか?」
「まあ、そうなんだがな…」
お茶を濁すような曖昧な返答に嗚呼やはりそちらの件か…と平生を装った彼女の心に波紋を生じさせる。…と言う事は、とは考察する。あの書類は十中八九自身の事が記述されているのであろうと。担当するカイロン教官がの家―家の事情を知っているのは当然であろう。の事だけではない。他の4人の事も把握しているのだから。…だが、そこまで深く知っている訳でもない。だからこその書類なのかもしれない。が触れられたくない部分まで細かく記述されている…。学園側は駒の様に自分たちを“管理”しているのだから。
「教官、特に用がないのでしたら私はこれで…」
「否、あるにはある。」
「では、早くしていただけませんか?明日からの準備がまだ終わっておりませんので」
つい教官相手に喧嘩腰の様なキツイ口調になってしまい、しまったとは思った。普段なら歯止めのきく部分でも、そうもいかないのは…苛々しているからだ。それは当人も自覚はしていたし、「貴女は昔から…機嫌が悪い時は誰に対しても容赦がありませんからねぇ」と昔馴染みの某自称モテカワ生徒総監に言われたのは…記憶に真新しかった。だが、カイロン教官はそんなを見ながら咎めるどころか声をあげて笑って言ったのだ。
「しかしなぁ…そうしていると王子と呼ばれているのも頷けるな」
「はあ」
思わず間の抜けた返事が零れ慌てて口元を押さえる。他の教官相手だったら間違いなくお咎め物だ。だのに、カイロン教官は…今、くつくつと笑っている。…だからこそ、レグルス班はこの面子なのだろうとある種納得すらしてしまった。今のの人によっては横柄とも取れてしまう態度を笑い飛ばしてしまうのはこの教官くらいなものだ。それに、それ以上に他人を見下した様な態度を取るアルビレオは、カイロン教官相手でなければ常に懲罰対象になりかねない。…レグルス班はカイロン隊所属でよかったと内心ひっそりと胸をなでおろしていたに、当の教官は気付いてういないのか…もしくは気付いた上で敢えて流しているのかは解らないが、「で…だ。…君を呼び出して確信した。…君は今回の演習に乗り気ではないな」と、突如確信をついたかのように話をはじめた。
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[20110228]
(mobile20101206)
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