「…教官、何をおっしゃるんです?あのレグルス班長が他人の心配ですか?」

「グラール学園の王子殿は手厳しいな。…私としては、王子…と呼ばれるよりはもう少し女の子として受け入れてもらえた方がいいんだが…」

「ご心配していただきありがとうございます。ですが、これは私自身が甘受している事ですので」

「そうか…」

「ええ、教官は心配し過ぎかと。…第一あのアルビレオですら、私の事は王子扱いですから」

「本人がそう思っているのなら…仕方がないな。…では、本題に戻ろう」



は別段自身が当時と呼ばれる事をきにはしていなかった。「王子」と呼び、アルビレオ程でないにしろ女子生徒に慕われており、男子生徒も彼女を女として扱う事はしない。…中にはカイロン教官の様に心配してくれる人間もいなくはないが、少数派だった。それほどにが王子と呼ばれる事は自然なことだった。



「今回の郊外演習地だが…君の家の別宅があるだろう」



一瞬、ためらう様にけれど、はっきりとした口調で紡がれたひとつの事実にやっぱりか、とは思った。間違いなく、普段はコントロールの利くはずの表情が厳しくなっているだろう。教官が心配そうに顔を覗きこんでくるのが見て取れた。



「エムロード財閥と家は繋がりがあっただろう?だからだろうな。レグルスから私に報告があってな…今、確認していたところだ」



の予測は当たりだった訳だ。しかしその書類には一体どれくらいの情報が記されているのか気になる所だった。…普通、演習地に別宅があると言うだけでは問題にはならない。…只の家族構成が記述されているだけでも同様であろう。いったいどれだけの情報が記述してあるのかと考えたら頭痛がした。…と、同時に昔馴染みであり某自称モテカワ生徒総監の胡散臭い笑顔が脳裏をよぎった。





(…自分のことは干渉するなって怒る癖にな…)





レグルスからの報告と言う部分が小骨のように胸に引っかかって不快感を感じるは、だけれど今度は感情を表に出さないようにただ、平生に振舞った。…ナイルもホクトもアルビレオも…まして、目の前のカイロン教官すらも信じないであろうが、ああ見えて他人という存在を意図も簡単に切り捨てるレグルス・エムロードという男はどこまでもに過保護だ。勿論、ティアが彼の“身内”に入るからであってそれ以上でもそれ以下でもないのだが。彼とは血縁関係自体はないが…そう所謂腐れ縁というものだ。切っても切り離せない不思議な縁。だからこその行動なのだろうと理解はしていたが…それでも素直に受け取れるものではなかった。



…レグルスだけではない、アルビレオもホクトにもそういうものは存在していた。不思議な縁が交わりあって、今のレグルス班存在しているのだ。まだグラール学園に編入してきて季節が一回りしていないナイルだけはわからないけれど…と、は心の奥でつけたした。



「…君が家と関わりたくないのは暗黙の了解だろうが、演習となれば話は別だからな…」

「お気遣いありがとうございます。ですが教官、演習に家の事情は関係はございません」



はっきりとした口調で言ったものの…渦巻く不安はいつしか吐き気もをもよおしていた。けれど、拒否権がないのは本当だ。怪我や病気等の戦闘に著しく問題を来たすようでなければ、実地演習は参加が絶対条件だ。…以前ティアは利き腕を怪我をして戦闘に参加できなかったこともあったが、それでも救護班等の雑務の手伝いに回される事は必須だった。だからこそ、自身に言い聞かせるように強がってみせるのだ。



「そうか…だが無理はするなよ」

「はい…では、失礼いたします」



それでも、鉛の様に重くのしかかる重圧は消える事はない。それでももうやるしかないのだと…は重い足を一歩、また一歩と自身の部屋へ戻るために進めた。




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[20110228]
(mobile20101206)